事業の背景

AI会社はこれだけ増えたのに、なぜ製造現場にAIは届かないのか

この数年で、AIを掲げる会社は本当に増えました。生成AIの導入支援、業務自動化、DXコンサルティング。東京で展示会に行けば、似たようなサービスのブースが何十も並んでいます。私たち株式会社地道も、AI開発の受託や研修を行う会社のひとつです。

それなのに、全国各地の製造現場を訪ねると、景色がまったく違います。生産管理は紙とホワイトボード、日報はExcelにすら入っておらず、ベテランの頭の中にだけ工程のコツが蓄積されている。AIどころか、その手前のデジタル化さえ、選択肢として検討されたことがない——そんな現場が、いまも全国に無数にあります。

供給側はこれだけ増えたのに、なぜ届かないのか。この記事では、私たちがヒアリング代行という一見地味な事業を始めた理由を、この問いから書いてみます。

「AI会社が多い」ことと「現場に届く」ことは別問題

まず前提として、AIベンダーやDX支援会社の多くは、構造的に「課題を持ってきてくれる顧客」しか相手にできません。

商談が成立するには、顧客側に「うちはこういう課題があって、これを解決したい」という言語化された発注内容が必要です。ベンダーの営業は、その言語化された課題に対して自社サービスを当てはめる形で提案します。逆に言えば、課題がまだ言葉になっていない企業は、営業リストに載っていても商談にならないのです。

都市部の企業や大手製造業には、情報システム部門やDX推進室があり、課題を言語化してRFP(提案依頼書)に落とす人がいます。しかし従業員数十名の中小の製造現場には、その役割を担う人がいません。社長は現場と経営を兼務し、日々の納期に追われています。

つまり、AI会社が1,000社に増えようが10,000社に増えようが、「課題の言語化」という最初の一段を誰かが埋めない限り、全国各地の現場には届かない。供給の量の問題ではなく、接続の問題なのです。

全国各地の製造現場で実際に起きていること

私たちがAI導入の相談を受ける中で見聞きしてきた、中小製造業の典型的な状況をいくつか挙げます。

課題は「ある」が、言葉になっていない

「なんとなく人が足りない」「あの検査工程、いつも残業になる」「機械のデータは取れているらしいが、誰も見ていない」。現場の困りごとは確かに存在します。ただそれは、日々の作業の中に溶け込んだ「実感」であって、外部に発注できる「要件」ではありません。

実感を要件に変換するには、業務の流れを棚卸しし、どこで時間と品質が失われているかを特定する作業が必要です。これは現場の人が片手間でできることではなく、かといって外部のコンサルタントに高額で頼むほどの予算も確保できない。ここで止まっている企業が非常に多いのです。

過去の「IT導入の失敗体験」が壁になっている

もうひとつ根深いのが、過去の失敗体験です。「昔、勧められて生産管理システムを入れたが、現場に合わず使われなくなった」という話は、全国各地の製造現場で驚くほどよく聞きます。

原因の多くは、導入前に現場の実態を十分に把握しないまま、パッケージを当てはめたことにあります。この経験をした経営者は、IT・AIの営業に対して強い警戒心を持っています。売り込みに来る人の話は、もう聞きたくない。この心理的な壁は、優れた製品を持っていくだけでは越えられません。

「話が通じる相手」がそもそも来ない

そして最後が、対話の問題です。都市部のITベンダーの営業担当者が製造現場を訪ねても、段取り替え、チョコ停、外段取り、検査成績書——現場の言葉が通じないことがあります。現場からすれば「この人に説明するところから始めないといけないのか」となり、本音の困りごとまで話が到達しません。

図面が読める、現場の空気を知っている、自分も同じ苦労をしたことがある。そういう聞き手が来て初めて、「実はね」と本当の話が始まります。

必要なのは「導入」の前の「聞くこと」

ここまでを整理すると、全国各地の製造業とAI・DXの間に足りていないのは、技術でも製品でもなく、次の一段だとわかります。

  • 現場の実感を、丁寧に聞き取ること
  • 聞き取った内容を、課題として言語化すること
  • そのうえで、本当に必要なものだけを検討の土台に載せること

売り込みを目的としないヒアリングであれば、警戒心の壁も越えやすくなります。そして聞き手が製造業経験者であれば、現場の言葉のまま話してもらえます。

私たちはこの一段を専門に担うサービスとして「製造現場ヒアリングパートナー」を始めました。全国各地の製造業を訪ね、経営者や現場責任者の声を聞き、課題を言語化してレポートにする。そのレポートをもとに、業務改善・AI系の会社と協力して、必要な改善やAI活用の検討につなげます。派手さはありませんが、ここが埋まらない限り、どんな優れたAIも製造現場には届かないと考えています。

聞き手は、全国の製造業経験者にお願いしたい

このヒアリングの担い手として、私たちは全国の製造業経験者に副業パートナーとして参加していただきたいと考えています。理由はシンプルで、現場の言葉で聞ける人が、その土地にいることが一番の価値だからです。

設計、生産技術、品質保証、製造現場、生産管理。あなたが現場で積んできた経験は、転職市場だけでなく、「聞く仕事」でも大きな力になります。働き方の詳細は「製造業経験者の「聞く副業」— 製造現場ヒアリングという新しい働き方」にまとめていますので、興味を持たれた方はぜひご覧ください。

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